もう何年も前のこと。
真夏の病院帰りの電車の中。
斜め前に20歳前後の女の人が立っていた。
左手でつり革を右手でにケイタイを持ちもてあそんでいる、どこにでもいるタイプ。
だけど半袖のむき出しのケイタイを持つその手首から腕まで一寸刻みのリストカットの跡が刻まれていた。
途中から楽しげにケイタイでしゃべっていた。
今から友達との待ち合わせ場所に向かうらしい。
時々、出会う、そんなひとたちと。
そのひとたちがなにに苦しんでいるのか、通りすがりのわたしにわかるわけがない。
それでも考える。
そのひとになにがありなにに苦しんでいるのか。
そのひとが自分を刻まずに生きる術はないのか。
今でも彼女はわたしの斜め前に立ち続けている。
でもわたしにはなにもわからない。
例えわかっても一緒に背負うことも、無理だろう。
自分のことですらなにもわからず解決できないというのに。
すれ違うだけのひとたち。
底の見えない、深い、誰かの想いをただ見送るだけ。